「祐介・字慰」尾崎世界観著を読んだ。
本書にかけられた帯に、「尾崎祐介」が「尾崎世界観」になるまでを描いた懇親の小説、と書かれていることが気になり、本書を手に取った。

「祐介」は、アルバイトをしつつ、売れないバンドマンのもがきが、狂おしいほどに描かれている。
主人公は、自分のバンドのライブの集客状況やバンドメンバーとの関係などにも、また今度でいいや、とどこか現実から目を背けているところがあった。
夢の中での出来事と現実のことが、行ったり来たりで描写されている本作品は、現実で直視したくない部分が大いに描写されていたように思う。

また、「字慰」は、「祐介」のスピンオフ作品であり、人の狂気に触れる、とはこのことか、と読み進めるほどに確信した。
誰かを思うこと、誰かの何かを好むということは、フェティシズムと言えば聞こえがいいが、あまりに没頭し、突き進めていくうちに、誰かに恐怖を与える存在になり得るのだ。
本書に収録されている作品は、いずれもずしんと心に重しを乗せるような感覚を覚える内容だった。