「神様の暇つぶし」千早茜著を読んだ。
タイトルからは想像もつかないような、読んでいると苦しくなったり、涙がこみ上げてきそうになる、様々な感情を揺さぶられる物語だった。
作中で、「あのひとを知らなった日々にはもう戻れない」という描写が、とても心に残っている。
誰かと出会ってしまえば、その人を知らなかった日常ではなくなる。
当たり前のこと、と言われてしまえば、そこまでかもしれない。
家族、友人、恋人、どれもが出会ってしまえば、関わってしまえば、どんな出来事も記憶として残り続ける。
自分の抱えるコンプレックスなどで恋愛に奥手な主人公が、父が亡くなって四十九日を過ぎた頃に、再会した父の友人であった写真家と関わることで、それまでの日常とは異なる時間を過ごす。
たったひと夏の思い出であろうとも、濃密な時間を過ごした相手との記憶は薄れないだろう。
誰かと関わることで変わる内面というのは、馬鹿にはできない。
誰かの不幸を代わりに背負うことはできないけれど、自分を頼りにしてくれる人を大切にしたくなる。
千早茜さんの作品は、ストーリーはもちろんのこと、登場人物たちが口にする食事が、とても魅力的だ。
本作品では、最初の方で主人公が食べていたカレーとナンの組み合わせにそそられた。腸がさっぱりするカレーを食べてみたくなった。