タイトルと表紙が目に留まり、「水やりはいつも深夜だけど」窪美澄著を読んだ。
本書は、6つの短編作品が収録された短編集で、どの短編も植物がテーマにちなんで作中にも登場する。
ぞれぞれの作品の中では、父と息子、母と娘の姿があり、夫婦の姿が描かれ、子育てをしている夫婦の心のすれ違いなども表現されていた。
例えば、「ちらめくポーチュラカ」という短編では、幼稚園でママ友に嫌われぬよう振る舞う女性は、過去にいじめられていた経験から女性だけの集まりに注意深くなっていた。そして、育児の合間にブログを更新することで偽りの自分を表現していた。
私の気持ちは写真には写らない。その写真をネットの向こうの見知らぬ誰かに見せる必要なんてないんだ。
私の目と耳が、覚えておけばいいんだから。それがいつか、私の記憶から消え去ってしまうとしても。
「水やりはいつも深夜だけど」 本文より抜粋
これは、ママ友に嫌われぬよう偽りの自分を表現していた女性が、苦手にしていたママ友と接した時に、そのママ友を苦手だと思っていたのは、過去に自分をいじめていた子に似ているところがあるからだけれど、この人とは違う、ということに気づいた時の思いだ。
偽りの自分から本来の自分に戻れるのなら、その方が良いのかもしれない。無理して仲良くしているママ友に、子どもの前でも嫌われる、というのは互いに良い思いはしないだろうから。
この短編集では、ここで紹介した短編以外にも子育てしている夫婦や親子の姿が描かれた短編が収録されている。
私は、子育て経験がないけれども、男女のいざこざ、女性同士の輪に入ることの窮屈さみたいなものだとかは、似たようなものを見聞きしたり、経験したりもしたことから共感するような部分もあった。
本書では、読み手の身の回りでも起こり得る誰かとの価値観の違い、家族のこと等が描かれているものばかりだから、読みどころをそれぞれ楽しめるかと思う。