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【読書感想】幾千の夜、昨日の月

読書
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 夜をテーマにしたエッセイ「幾千の夜、昨日の月」角田光代著を読んだ。

 本書では、幼い頃から現在に至るまでの夜にまつわる、角田さんの様々な思い出が語られている。子供の頃の夜の思い出は家族との話があり、成長するにつれ、夜の思い出は友人や恋人など誰かと過ごしたものとなっている。

 角田さんが記述されている夜の話は、海外旅行でのものが多かった。それも、角田さん1人きりの海外旅行での思い出ばかり。
単身だからこそ存分に楽しめることもあるだろうし、地元の方々との距離も縮まることもあるかもしれない。角田さんご本人も語ってらっしゃったが、怖い思いもされたようだった。

 1ヶ月くらい海外旅行をバックパッカーとして過ごしていた時、人間が持つ野生の勘が研ぎ澄まされたような話が、とても印象的だった。
通りに近づいただけで危ないな、と感じたり、ここのお店の料理は美味しいだろうな、とわかるようになってくるなど、肌で感じるものがあるのだそう。

 世界のどこも、私んちの近所ではない。そんなことをすぐ忘れる。どこにでも、深夜まで開いている居酒屋があると思っている。どこにでも二十四時間営業のコンビニエンスストアがあると思っている。
そんなはずはないと頭でわかっているのに、わからなくなる。

「幾千の夜、昨日の月」本文より抜粋

 国内外問わず、訪れた先でこんな調子になってしまう角田さんに親しみを覚えた。私も、旅行先で似たようなことが幾度もあるからだ。私に限らず、こういうことを経験した人は結構いるような気がする。

 その土地のあるがままに順応できたら良いけれど、すぐには慣れないのだ。自分が馴染んだ生活が、自分にとって便利であればあるほど、別の環境に足を踏み入れてから馴染むまでは、苦労しそうだ。

 私は、夜の思い出を語り合える人が少ない。夜を共有してきた人というものが、少ないからかもしれない。
これから自分勝手に楽しむ夜の思い出を作っていくのも、楽しそうだな、と思っている。