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【読書感想】世田谷革命前夜

読書
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 ただならぬ気配を感じたような気がして、「世田谷革命前夜」牧野楠葉著を読んだ。本作品は、現在のところ(2020年3月上旬)、Kindleでのみ読める電子書籍のようである。

 本作品は、美陽(みよ)という主人公が、美人の姉に対する自分の感情が決して実ることのないものであることを自覚しつつ、実母からの酷い虐待を受け続けてきたこともきっかけとなり、高校を中退し、働いて貯めたお金をもとに世田谷へ上京してからの出来事を中心に描かれている。

 世田谷で暮らし始めた美陽は、ドラッグストアで容易に手にすることができる薬を中毒症状が出るほどにどっぷりと浸かる。
孤独であり、姉へのどうしようもない気持ちも引きずりつつ、薬物中毒になっていく美陽は、痛々しい。

 ある時、美陽は薬物更生施設に入ることとなり、そこで姉を重ね合わせてしまうほど美しい女性と出会う。
その女性と出会い、美陽が回復していく物語だったら良いのに、と思うのだが、盲目のホームレスとも出会い、彼をカミサマとして、怪しげな宗教活動を始めてしまう。怪しさが際立つようなことが、その後いくつも重なっていき、美陽はどうみても破滅していくような日々を送る。

 美陽は、とんでもないことをして、共同生活をしていた部屋から逃げ出す。逃げ出した後は、良いことも悪いことも次々と起こり、美陽以外の人々のことも明らかになっていく。

 ここで描かれていることは、どれも混沌として誰も幸せそうではなくて、何かを抱えている。たとえば、主人公は、自分が逃げ出したことから、さらに逃げ出そうとして薬物中毒になったとしか思えず、救いようがない。
 けれども、主人公は最後には、誰かに意図せず押しつけてしまったことと向き合ったようにも思えた。

 思わぬことが次々と展開し、様々な感情が行き交う混沌としたストーリーの中で、 誰かのせいにすべきことは、誰かのせいにすれば良いけれど、自分が背負うべきことからは逃げてはいけないことに気づくかどうかが大切、ということを思い出させてくれる作品だった。