「何か読みたいな」と思い、書店のウェブストアを眺めていたところ、”第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<大賞>受賞作”という文言が目に入り、興味をそそられたことから「虚魚」新名智著を読んだ。
まずはじめに、「虚魚」は「そらざかな」と読む。さて、「虚魚」とはなんだろう、というのは言わずもがな、本作品を読んで確かめて欲しい。
それでは、本作品について、語っていきたい。主人公は三咲という怪談師で“体験した人が死ぬ怪談”を探していて、“呪いか祟りで死にたい”カナちゃんと暮らしている。カナちゃんというのは、三咲が付けたあだ名のようなもので、本名などを知らないがお互いの目的の為に利害が一致していることから詮索せずにいる。
ある日、カナちゃんが釣り堀で出会った人から、「釣り上げた人が死んでしまう魚がいる」という話を聞いてきたことから、三咲もその話に興味を持ち、その怪談について調べることにした。
本作品を読んでいると、主人公が怪談師ということもあり、怪談師がどうやって怪談話を集めているのか、怪談話の真偽を確認するフィールドワークのようなことなど、これまでに読んだことがある実話怪談のことなどが頭の中に浮かんでくるようだった。
また、主人公の三咲が怪談師になった経緯、過去のことなどが語られることで、“体験した人が死ぬ怪談”を探している理由に結びついていくのだが、三咲が怪談イベントに出演する際によく語る怪談話にも伏線があり、何度も驚くこととなった。
「虚魚」を読んでみたら、序盤で抱いた登場人物たちの印象が徐々に変化し、怪談が怪談を呼ぶようなこともありつつ、作品を楽しめた。終盤に差し掛かったあたりで、三咲とカナちゃんの会話の途中、三咲がカナちゃんに「カナちゃんは幸せになれないと思う」と言い、それから、「わたしと同じで。でもそのほうが楽しいでしょう?」と続けたシーンが印象的だった。