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【読書感想】新装版 ムーミン谷の夏まつり

読書
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 1冊読むごとに、ムーミン達の世界観に浸かるのがちょうど良い現実逃避になっているような今日この頃。今回は、「新装版 ムーミン谷の夏まつり」トーベ・ヤンソン著、下村隆一訳を読んだ。


 本作品では、6月のある日、ムーミン谷には火山の噴火によってたくさんの水が押し寄せてきたことから、ムーミン一家やその他の動物達は流されてしまったものの、同じく流されてきた家らしいものに移り住むことが描かれている。

 ムーミン一家が移り住んだ家が、実は劇場だった、ということがエンマというキャラクターの登場で明らかになったところで、ムーミンバレーパークのショーが行われている場所を思い出した。こうやって、ムーミンシリーズを読むことで、ムーミンバレーパークを訪れた際の記憶と紐づいていくことが、嬉しい。

 それにしても、ムーミン一家の前に姿を表してからのエンマが、なかなかに癖のあるキャラクターだった。ムーミンシリーズを読んでいると、エンマに限らず、できることなら現実では関わりあいになりたくないキャラクターに出会う。とはいえ、こういったキャラクターがいるからこそ、成り立つストーリーがあるわけで、そういうことは現実にも言えることだから、非難ばかりしていられない。

 また、エンマと出会ったことで、これまでに演劇というもの、劇場の存在すら知らなかったムーミンパパ、ムーミンママ達が、演劇をすることになってからのエンマの張り切りようが、それまでのイメージと異なっていくようでおもしろかった。

 ひろい世の中って、おそろしいよ。あそこじゃ、だれもひとのことなんか知らないんだ。だれはなにがすきで、なにがこわいのか---それもわからない。

「新装版 ムーミン谷の夏まつり」より抜粋

 これは本作品の冒頭に話が戻ってしまうけれど、ぜひ紹介しておきたいところだ。春になったらムーミン谷へ帰ってくるはずのスナフキンが、夏になっても帰って来ないことから、ムーミントロールがスナフキンのことを考えているところだ。旅するスナフキンを思うムーミントロールの気持ちには、スナフキンへの憧れがよく表れている。それに、こういった何気ないように思えるムーミントロールの考えていることが、現実での読者の日常に通じるような言葉に触れられたのが、どこか心地良かった。

 「新装版 ムーミン谷の夏まつり」を読んでみたら、ムーミン一家に思いがけないことが起きたり、スナフキンの思わぬ一面を覗くことができたりして、楽しめた。余談ではあるが、本作品を読んだことで、ムーミンが蚊に刺されないほどの分厚い皮膚であるというのは、頭の片隅に入れておきたいようなものだった。