「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」高橋ユキ著を読んだ。
本書は、2013年に山口県で起こった連続殺人放火事件を追いかけたノンフィクションである。
何とも言えない不穏な雰囲気を醸し出しているとしか思えないタイトルが気になり、本書を読みたい、と思った。
いざ本書を読み始めると、週刊誌の記者として、また殺人事件の公判を取材するフリーライターとして活動している著者ならではであろう描写に引き込まれた。実際に起こった事件だからこそ語られるものは、好奇心を掻き立てられることもある。
本書で著者が追いかけた事件は、山口県の限界集落で起こったものだからこそ、その事件に関わった者たちにつきまとう噂話などが、嫌な気持ちになるほどだった。
良くも悪くも田舎には娯楽がない、と言うのは、本文で著者が述べている通り、悪口や噂話ですら一種の娯楽になってしまう。
都会と田舎の娯楽の違い、と言ってしまえば、そこまでかもしれないが、地域によっては人付き合いこそが全て、となってしまうのは、生きづらさを感じるのも無理はない。
また、著者は、拘置所に犯人がいた際には、手紙のやりとりに始まり、面会にも訪れていたからこその記述もあり、犯人が妄想性障害であることを知った。
ニュースなどで精神鑑定という言葉を耳にすることも珍しくなくなったが、精神障害を患っている犯人とのやりとりについて、専門家にアドバイスを受けるなどしている著者なりの真摯な姿勢を記述されていることが印象的だった。
犯人が妄想の世界に生きているままでは、事件について反省することがないまま死刑執行されるかもしれない、ということが、どんなにやるせないことなのかが、著者の言葉からも伝わってくるようだった。
本書を読んだことで、どんなにおぞましい事件であっても、その事件で表立って報道されない部分も含めて追いかけると、生身の人間の恐ろしさ、やるせなさなど、どうにもならない気持ちに揺さぶられた。