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【読書感想】呪いと殺しは飯のタネ 伝記作家・烏丸尚奇の調査録

読書
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 第20回「このミステリーがすごい! 大賞」隠し玉作品というところが気になり、「呪いと殺しは飯のタネ 伝記作家・烏丸尚奇の調査録」烏丸尚奇著を読んだ。

 タイトルと作家名からも察する通り、本作品の著者も、作品の中での主人公であり伝記作家である人物も烏丸尚奇であるところが、まずワクワクした。


 さて、本作品は、小説家としてうまくいかず伝記作家として生計を立てている烏丸尚奇のところに、とある企業から創始者の伝記を書いて欲しい、との依頼が舞い込む。その依頼は、多額の金銭のほか、刺激的なメッセージが添えられていた。そのメッセージの内容から、現状に不満を抱いていた烏丸は、小説家としてオリジナル作品を再び創作できるようになるきっかけになるかもしれない、と思い、依頼を受けることにした。

 依頼を受け、伝記を書くことにした烏丸は、依頼に含まれていたことから、企業から指定された蝶野森という街へと向かい、創始者一家が暮らしていた屋敷へと滞在し、執筆に取り組み始める。そこで、伝記の執筆にあたり、屋敷のメイドや庭師に創始者一家のことを聞いたり、屋敷を探索するうちにとんでもない秘密を知ることとなる。

 烏丸は、創始者のことを知るために屋敷の者だけではなく、博物館の館長に話を聞くことになり、創始者の過去や妻との出会いを知り、図書館へ調べ物をするために向かうと大学講師時代の教え子と再会したり、その教え子が創始者の娘と同級生であったことから思わぬ話を聞いたりもする。

 本作品を読んでみると、伝記を書いて欲しい、との依頼から、指定された屋敷へと向かったことで、その一族にはとんでもない秘密があることがわかってしまい、伝記を書くどころか、その秘密の方に惹かれてしまい、オリジナル小説の執筆が捗ってしまう伝記作家の姿が描かれている。その一家や屋敷に秘められていたものを第三者として触れてしまったが故の好奇心と恐怖が入り混じった心理行動が、有名な小説あるいは映画に喩えられながらも表現されている。

 終盤では、伝記を書いて欲しい、という依頼の裏側にあった恐ろしい計画が暴露され、烏丸も命が危うい場面が描かれる。何の躊躇もなく、自然にこういうことができてしまう人がいるんだな、という狂気に満ちた展開には、怖いけれども読み進めたい、という葛藤みたいなものがあった。結末まで読むと、この作品はシリーズとして続くのだろうか?という淡い期待も抱くものの、狂気と愛が入り混じったような危ないあの人と烏丸の絡みは、心臓に悪いな、とも思う。

 「呪いと殺しは飯のタネ 伝記作家・烏丸尚奇の調査録」を読んでみたら、とんでもなく刺激的なものに出会ってしまった、という気持ちでいっぱいになった。