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【読書感想】あさとほ

読書
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 先日、「虚魚」新名智著を読み、その不思議でどこか不気味な物語の余韻に浸っていたところ、次の作品が発売されたことを知り、「あさとほ」を読んだ。

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あさとほ [ 新名 智 ]
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 「あさとほ」は、主人公・夏日が、幼い頃のある日、双子の妹・青葉が目の前で消失するのを目撃したところから始まる。夏日が目撃した妹の消失の瞬間には、幼馴染の明人も一緒にいたけれど、夏日と明人以外は、両親も含めた誰もが青葉についての記憶や存在を示すものすら消えてしまったのだった。

 その後、夏日が大学生になり、卒業論文に取り掛かる時期になったところで、担当教授が突然の失踪をし、教授の行方を心配しつつも、教授がある物語を追っていたことを知る。そんな時、夏日と明人は、ひょんなことから再会し、一緒にその物語について調べることとなった。

 私は、これまでに古典やそれ以外の物語などについて、誰かから誰かへ語り継がれたり、書物として残っていたから知られることとなった物語もあれば、語り継がれることなくいつしか消えていった物語もある、というようなことを考えたことがなかった。本作品を読むことで、語り継がれることも書物としても残ることはなかったけれど、どこかの書物で名前だけ出てくる物語があることを知ったら、その分野を研究する者にとってはさぞや興味をそそられることだろう、と想像してみたりもした。

 けれども、その物語に触れることで、触れた人が消失したり、都合の良いように人生などが書き換えられてしまう、ということを知ると、あまり調べ過ぎたり、知り過ぎるのは怖くもあり不気味ではないだろうか。たとえ自分の人生あるいは物語があるのだとして、何かの拍子に都合よく置き換わっているのが常だとしたら、それが現実なのだと素直に受け入れるのが幸せなのかもしれない、とも思った。

 「あさとほ」を読んでみたら、主人公である夏日が、”人を消失させる物語”について調査していくうち、その物語に触れた者だけが魅せられるものに見せられていく様を追う不穏さがあった。物語に漂う不穏さが、良くも悪くも不安になりながらも、読む者を夢中にさせる魅力でもあった。