「愛なき世界」三浦しをん著を読んだ。
本作品では、T大学のそばに店を構える円福亭という飲食店の店主とその弟子・藤丸、T大学のとある研究室の面々のことが描かれている。
作中では藤丸が、恋した相手が植物を研究する大学院生・本村であり、植物を愛するが故に、生身の人間との色恋はするつもりがない、ときっぱりと交際を断る。
藤丸は、本村にフラれて落ち込んだりもするものの、円福亭が配達も始めたことから、研究室の面々との繋がり、植物のことや研究についての知識は深まるばかり。
フラれた相手、振った相手であろうとも、料理や植物を通じて、互いの興味のある分野について理解が深まっていく様子は、心が温まった。
研究に打ち込む人生にする、と決めた者であっても、心中が穏やかではないこともある、ということが作中のあちこちで読み取れる心の機微がある。
研究すること、料理をすることの似ているところだとかが描かれていたのも、読んでいてそうかもしれない、と思えるのは、登場人物たちが職業などの垣根を越えた繋がりが物語の中で幾度もあったからだろう。
「愛なき世界」を読んでみたら、研究者と料理人が織り成す物語は、温かくもあり、時に甘酸っぱさもあった。